14.「ノアの教典」 14章「『無料』~無料によって世界を支配されないために~」

 

新世界ノアでも、過去の時代でも無料はありますが、無料で何を与えられるかによって人々の生活に大きな違いが現れてきます。その違いをこの章では学んでいきます。

 

新世界では、生きていくために必要なもの全てが無料です。それも、国民投票で選んだ最高のものだけが与えられるため、最高の生活を送ることができます。高級ホテルに毎日、宿泊でき、食事もレストランでプロが作った料理を無料で提供されます。家事も全てやってくれるため、仕事をしなくても生きていく事ができます。電気や水道、ガスなどの費用はホテルが支払うため無料です。さらにスマートフォンは1人1つ与えられるため、購入費用や通信費、電話料金も無料です。

 

かわりに、所有が禁止され、娯楽やスポーツなどが全て有料になります。無料でテレビ放送されているのは、政治と法律に関するものだけです。

新世界では無料で生きていくことが出来ますが、楽しみのためには働かなければいけません。

 

医療は有料ですが、口座残高がなくなると無料になります。そのため、病気に備えてお金を貯めておく必要もありません。ただし、幹細胞治療に関しては完全に有料です。

 

新世界では生きていくために必要なもの全てを国が与えてくれるため、遊ぶために働けばいいのです。もちろん、より人生を楽しむためには幹細胞治療を受けたりファッションや美容のために働く人達も少なくありません。ローンもなく、生活費がかからないため、一般的には23日、15時間程度しか働きません

 

政治家は1人もおらず、ほとんど公務員もいません。無駄な仕事を徹底的になくし、必要な仕事を分け合ったため、短い労働時間で済むのです。かわりに、国民全員で政治をしなければなりません。政治に関することは提案し、国民投票で決めるのです。そのため、国民が本当に望むことが次々に実現していきます。

 

国家予算は道路や政治家、公務員、学校などに支払われるのではなく、エデンの建築や運用に使われるのです。

 

それでは、過去の時代と比較してみましょう。

過去の時代では、一部の遊びが無料です。テレビではバラエティ番組やドラマ、映画、スポーツなどを無料で見ることが出来ました。かわりに、一定時間ごとに広告が流れ、大手企業がCMを行い、国民にイメージを刷り込ませ、大手企業が儲かる仕組みが出来ていました。天下りや圧力により政府の言いなりにならざるを得なかった大手企業はオリンピックやスポーツを利用して感動や楽しみと引き換えに国民に大量の怪我人を出し、医療業界を儲けさせました。

また、テレビでは様々な面白い番組が流れていたため、人々は政治番組を見ないようになり、政府は国民の目を逸らして好き放題の政治を行いました。人々は政治の知識がないため、興味や関心が無くなりました。無料でテレビ放送を行うことでメディアを操作して政治への興味を逸らし、都合の良い情報を与える事が出来たのです。

 

また、スマホが普及したことでゲームも無料のものが増えました。無料のスマホゲームは同じことを繰り返すばかりですが、「所有の欲求」や「自己実現の欲求」、「他人に認められたい欲求」などを利用した行動心理学によって、有料のゲーム以上の売り上げを上げたのです。また、毎日ログインをさせることにより、情報を刷り込ませ広告を行ったうえに定期的に「期間限定」を利用して、必要以上に搾取したのです。無料をいいことに同じことを繰り返し、大量の時間を奪いました。ゲームをより一層楽しむためには、時間を奪われるのか課金をするのか迫ったのです。

貧困層は無料で我慢しようと始めたのにも関わらず、中には100万円以上課金する人たちも現れ、社会問題になりました。ゲームのグラフィックやストーリーなどは、従来の有料の専用のゲーム機には遥かに劣るものの、欲求を刺激し、行動心理を悪用したゲームが溢れかえり、国民を苦しめたのです。

 

さらに、旧政府は義務教育を無料で与えました。それによって子供は16年の時間を奪われた上に、学歴社会という、就職時に学歴による差別を受けることになりました。16年も無理やり学ばせたため生活していく上で必要な教養の範囲を遥かに超えた内容でした。ほとんど意味のない勉強をさせられていたのです。しかし、就職時に差別が行われていたために大人は子供に異常な勉強時間を強いて、奪う側に回れるように子供を育てたのです。

勉強内容の中には政府にとって都合の良い知識を与えて洗脳させることも目的としていました。政治は意味のない情報と政府の良い印象を植え付ける嘘の知識を学ばせました

この教育で犠牲になったのは子供だけではなく、子供を養わなければならない大人達の負担を大きくしました。16年という長い期間を勉強に費やさせることで、労働を始める時期を先延ばしにし、生活の負担を子供達に分担させないようにしました。そうする事で、働くことで精一杯になり、政治に反抗する時間やお金、気力を奪ったのです。

 

他に無料で与えられていたのは道路でした。これによって人々の行動範囲は広くなり、車を持たなければ不便な社会が生まれました。人々は不便なく生活をしていくために車を買わなければならず、生涯4000万円の負担を強いられることになったのです。家のローンと合わせて月々10万円以上の支払いをしなければならなくなりました。さらに、自動車社会は72年間で63万6481人の死亡者を出し、毎年大量の死亡者と負傷者を生み出し医療を儲けさせました。

 

普段、生活していくために無料で与えられていたものはこれくらいで、政府は生きていくために生活に必要なものは何も与えてくれませんでした。そのため、必要なものは働いて全て買わなくてはいけませんでした。政府は国民に与えない事で、民間企業を通じて搾取を行なったのです。新世界ノアでは無料の家や食事代、電気や水道、ガス、電化製品、スマホ代、通信費などありとあらゆる生活費を支払わなくてはいけませんでした。

 

人々は生きていくために週5日、18時間以上働き、時には残業や休日まで働きました。それでも、借金をして毎月ローンを支払わなければならない人々は大勢いました。病気や災害、事故など不安も多く、いざという時のためにお金を貯めておかなければなりませんでした。生きていくのに絶望し、毎年5万人が自殺しました。人々は政府に騙されて死ぬまで働かなければならない奴隷となったのです。

 

生きていくのに何も与えず、奪い合いをさせたため、奪う側に回った人間は裕福な生活を送り、奪われる側に回った人間は貧しい生活を送りました。無料のテレビで満足するようになり、月額の有料動画サービスで我慢しました。無料に群がったために、大手の広告は影響力が大きく、さらに格差は固定されました。そして、無料の情報を見ることで政府は国民をうまく洗脳できたのです。

 

このような社会になり、国民は不満を抱え、世の中は治安が悪くなりました。奪わなければ生きていけない世界では、仕事がなければ生きていけません。仕事もまた奪い合ったため、仕事に就けない人もいました。生きていくために強盗をしたり、金銭トラブルのために殺人を犯したりしました。以下は裁判所が公開している事件件数です。

平成27年・・・352万9852件(全事件)うち刑事事件が103万2650件

平成28年・・・357万5743件(全事件)うち刑事事件が99万8912件

平成29年・・・361万3870件(全事件)うち刑事事件が95万9455件

平成30年・・・362万2535件(全事件)うち刑事事件が93万7192件

令和元年・・・355万8317件(全事件)うち刑事事件が88万5383件

 

裁判沙汰になる事件が毎日約1万件発生していたのです。ここまで、治安が悪いと普通に暮らしていても裁判や事件に巻き込まれることは決して他人事ではありません。世の中には詐欺が溢れかえってしまい、電話やインターネット、メール、訪問販売の多くは詐欺だったのです。また、搾取政治を行っていた政府はむしろ、詐欺や事件が多い方が好都合でした。詐欺によって国民を騙し、通常の生活では奪えないお金を無理やり奪ってくれるからです。貧困層にとっては詐欺に騙し取られることが生活に支障が出るほど致命的になります。また、事件が多い方が、政府に反抗する人間を消すためには好都合でした。木を隠すなら森の中。暗殺などを行った場合にはその捜査に専念されては困るのです。治安が悪い方が政府にとってはかえって好都合だったのです。

 

新世界があたえる無料と旧政府が与える無料はどちらがいいか言うまでもないでしょう。これは、本当に大切なことなのです。無料(ただ)ほど、高いものはないという言葉があります。無料(ただ)をエサに人を騙す世の中では教訓となっていたのです。

 

国民はみんな税金を払っています。政府は国民が生きていくために必要なものを提供し、生活を支えることは当たり前のことです。騙されて、一般の国民には何も与えられず国家予算は大手企業にばかり使われ、政府と民間企業に癒着がうまれ、政治は腐っていきます。

 

国を運営していく上でどちらを無料にするほうがいいのか世界中の人々はよく考えなければなりません。