#16. 第1章(第二節)「やくざと民衆の同盟」

ノアの革命日記

 

第一章(第二節)~新世界ノアの革命家を守る巨大な城と新世界の仕組み構築が始まる~

 

日本のノア革命初期⑰やくざと民衆の同盟

2021年4月1日、「関東最大の勢力を誇る新鮮組総長、現る」

暴力団や海外マフィアの危険を感じていた僕はあの後すぐに白田会長から聞いたことをグループラインのみんなや動画を使って発信した。グループのみんなや声を挙げてくれた同志たちは警戒してくれているだろうと思う。また、監視カメラをつけて証拠を残すことに協力してくれている人もいるのではないかと思う。それもあってか、今のところは恐ろしいニュースは報じられていない。

しかし、ニュースが無いからと言って仲間の無事は断定できない。行方不明者が毎年9万人もいることを考えると、そもそもほとんどが報道されていないことが分かる。ちなみにインターネット※1で調べると主な戦争での日本の死者数は第一次世界大戦で1万3800人日露戦争で11万5600人だという。第二次世界大戦では230万人死んでいるので比較にならないが、今の自民党政権下では戦時と変わらないくらいの死人が出ている。交通事故や自殺者、殺人などを合わせれば年間約12万人の死者が出ているため、もはや日本は常に戦争をしているようなものである。外国人に殺されるか、日本政府に殺されるかの違いだけだろう。政治を使った大量殺人である。このような戦時下で自衛隊は全く動かず、警察のみに任せっぱなし。死者が多すぎて捜査が出来ないのが現状である。死体が無ければ証拠になる手がかりも乏しく、捜査が難航する。毎日約250人も行方不明者が出ているということは、およそ5.76分に一人、日本人が消えている計算になる。もはや行方不明者だけでも、手に負えないだろう。こんなに治安の悪い世界では殺された事件をいちいちニュースにしていたら、一日中、暗いニュースだけになってしまう。もしかしたら、既に消されてしまった同志もいるかもしれない。政府ならテレビの報道くらいなら思いのままだろう。この世の中は本当に怖い世の中だ。そのうえ、白田会長が「政府の依頼で暴力団と海外マフィアが暗殺のために動いている」と言ったものだから、恐怖で押し潰されそうだ。そんなことを考えていると、白田会長から電話がかかってきた。

(※1「https://www.hns.gr.jp参考 一九九五年八月十五日に」朝日新聞社、「日本の侵略と膨張」吉岡吉典などの情報をベースに記載したもの)

 

「おう、タケル君か。今から紹介したい人間がおる。関東最大の勢力を持っておる新鮮組の総長じゃ。今からzoomするぞ。」

 

Zoomには白田会長とその横の画面にサングラスをかけた小柄な男が映っており、物凄い重圧感を感じる。猛獣を前にしたかのような今までに感じたことのない恐怖が襲ってきた。一体、今からどんな話をするのだろうか。心臓は張り裂けんばかりの鼓動を上げている。僕は声が出なかったがせめて会釈をした。しかし、その小柄な男は微動だにしなかった。沈黙を破ったのは白田会長だった。

 

「この男が、総勢1万人の子分を従える関東最大の勢力を誇る新鮮組総長、近藤静也じゃ。新鮮組は新世界ノアを守ることを決めてくれた。そこでお前さんと話したいことがあるそうじゃ。それじゃあ、近藤くん話してくれ。」

 

そういうとその男はようやく閉ざしていた口を開いた。

 

「初めまして、新鮮組の総長をしている近藤静也です。今、日本政府は1人に数億の懸賞金をかけて暴力団や海外マフィアに暗殺依頼をしています。これは、通常の10倍以上の価格です。そして、今回はターゲットの人数が多く、総額で100兆円の資金を政府は用意しています。ちなみに、タケル君、あなたには100億円の懸賞金がつけられています。」

 

それに対して、僕は恐怖を隠しきれず、震えた声で答える。

「そ、そうなんですか?監視カメラやボディガード、警備員がいるから手を出してこないのでしょうか?」

 

近藤さんは答える。

「100億の懸賞金と言っても、殺害がバレない事や自殺に見せかける事、証拠が残らないことなどで、条件によって支払われる金額は大きく異なります。そのため、懸賞金を狙っている人間は監視カメラとボディガード、警備員に囲まれているあなたをどのように殺害するか試行錯誤していることでしょう。しかし、早い者勝ちです。殺し屋が襲ってくるのは時間の問題ですよ。」

 

がくがくがくがく・・・僕は答える。

「ボ、ボディガードや警備員を殺害して、さらに監視カメラの証拠が残っても、攻めて来るでしょうか?」

 

すぐさま、近藤さんは的確に答える。

「大きな組織ともなると身代わりに刑務所に入る組員が必ずいます。もちろん、出所した時には幹部の地位を用意してですがね。政府の提示額は100億円です。いかに条件があろうとも通常ならもう、殺されてもおかしくありませんよ」

 

がくがくがくがくがくがくがくがく・・・ぼ、ぼ、僕は答える。

 

「通常ならと言うことは、今回は通常ではないということですよね?何か殺せない理由があるんですか?」

 

すると、近藤さんから思ってもない返答が返ってきた。

「はっはっはっはっ。タケル君、怖がらせるようなことを言って申し訳ございません。私があなたを何としてでも殺させませんよ。白田会長の言う通り面白い方ですね。そのちっぽけな勇気で、よくこんな大胆な事をやったものです。

 

白田会長が言った通り、新鮮組が新世界ノアを支持することを決めた理由を、タケル君には言っておかなければなりません。少し、長くなりますが聞いてください。

 

私には長年の夢があります。それは、極道のいない世界を作ることです。しかし、組を解散して簡単に済むような話ではありません。私が総長の座から退いただけでも、跡目争いのため組が割れて、新鮮組内で抗争になります。組の家族が無駄な血を流すことになるのです。それに、極道は元々、社会でまともに生きていけない半グレや街のチーマー、ギャングなどアウトローの人間を家族として受け入れて組織しています。いかに、任侠道で教育しているとは言え、組が解散し統制を失えば、街に何の秩序もない人間が溢れてしまいます。

街の治安は一気に悪化してしまうでしょう。また、関西最大の勢力を持つ鬼州組が勢力拡大のために、関東に攻め込んできます。全国制覇を成し遂げることが鬼州組の念願だからです。それだけではありません。新鮮組が持っていたシノギを狙って海外マフィアもまた、勢力を伸ばしてきます。

そのため、私は極道から道を辞めるどころか総長の座も明け渡すことが出来ないのです。

 

 私には愛している女性がいます。大切な組の家族が目の前で殺され、怒りで我を忘れ、

獣の血が目覚めようとした時、彼女の言葉で何度も救われました。『夢を・・・希望を・・・忘れないで・・・人を憎まず、争わないでと。憎しみと怒りに包まれ我を忘れそうになった時は何度でも助ける大きな光になる』と。私は二度と大切な家族が命を落とすような悲劇を繰り返したくはありません。しかし、日本中の組の勢力争いや海外マフィアとの抗争は無くならないのです。どれだけ、私が理想を訴えたところで所詮は、アウトローの人間の集まり。完全に制御することは不可能なのです。」

 

 最初にあった時に、感じた重圧感や獣のような威圧感とは裏腹に、とても正義に溢れた優しい心を持った方だった。近藤さんは自分自身の夢を語ってくれた後、さらに続けて話した。

 

 「今は、人々から恐怖され、憎まれ、拒絶されるやくざですが、元は社会からアウトドロップした半端者を集めて、任侠道で教育し、街の治安を守る組織として活動していたのです。戦後は警察の人数も十分ではなく、治安を守ってもらうためにカタギの人達がみかじめ料を払うことによって用心棒の役割を果たしていました。しかし、治安が良くなり警察の組織が大きくなると人々はみかじめ料を払わなくなり、やくざはみかじめ料では組織を維持できなくなったのです。そのため、やくざは違法なシノギをせざる得なくなり、今のような忌み嫌われる存在となったのです。

 新鮮組みかじめ料を貰って、人々の治安を守ることで組織を維持しようと努力をしてきました。真の極道は正義の心を失わず、人々から愛された昔の良きやくざを継承していこうとしてきたのです。新鮮組傘下の組にもまだ、その信念をもつやくざはいます。しかし、それを決定的に潰したのが「暴排条例」と「暴対法」です。みかじめ料を支払う国民を違法にし、やくざへの資金の流れを止めたのです。これによって治安を守る組織としてのやくざは追い込まれ次々に姿を消してしまいました。この法律は政府がやくざを生かさず殺さず、都合良く管理するための法律です。民間からの資金を絶ち、政府がやくざを独占するものなのです。もし、本気で政府がやくざや暴力団を消そうと思えば、いつでも出来る力を持っています。政府が表立って出来ない汚い仕事をさせる組織の存在は、政府こそ最も必要としているのです。

 私としては、新鮮組みかじめ料を貰って国民を守る理想の組織にしたいと考え、今もみかじめ料をいただき用心棒として雇ってもらえるよう努力してきましたが、それも限界があります。組織を維持するためには政府との繋がりをもち、暗殺など汚い仕事を引き受ける他無かったのです。私は大切な家族に人殺しのような家業をさせたくはないのですが、政府から目をつけられないよう、最低限度の仕事だけは引き受けています。

 今では、どこのやくざも死体処理の設備を持ち、政府や権力者の依頼で暗殺を引き受けています。私はそれが出来ずに、新鮮組を弱体化させてしまいました。かつては日本最大の勢力を誇る組織でしたが、今は関西の鬼州組に大きく差をつけられています。政府との癒着を強め、今では日本最大の組織となっているのです。政府にとって都合の悪い人間の暗殺をやくざに依頼するようになって、行方不明者の数は年間約9万人を超えるものになっている・・・。これは大規模な戦争で亡くなる数とほとんど変わらねぇ・・・。こんな大虐殺が許されていいはずがねぇ・・・。」

 

さっきまでの冷静沈着な態度や礼儀正しい口調は変わり、怒りと憎悪が伝わってきた。サングラスの下は物凄い形相で怒りを必死にこらえているのが分かる。そして、また、冷静さを取り戻して話を続けた。

 

新鮮組も政府の依頼を受けてはいるのは違いありません。このような話を私がするのは筋違いかもしれません。しかし、私が総長として組をまとめ、このような残虐な依頼を最低限度に抑える努力をしなければならないのです。私が総長を退けば、今以上の血が流れることになります。どうすることも出来ない中、あなたたちが国を変えようと立ち上がってくれました。新世界ノアでは、やくざは忌み嫌われる存在ではなく、警察と共に国民を守る治安組織として描かれています。私が理想とするやくざの世界がそこにあったのです。もう、大切な組の家族に殺しのような汚い仕事をさせずに済みます。そして、組の抗争で大切な家族の命を失うこともなくなります。だからこそ、新鮮組は何としてでも新世界ノアの革命家たちを守り抜き、新世界の実現に全力で支援させていただきます。

 

新世界を実現したら、私は極道の世界から身を引きます。そして、私を救ってくれた愛する女性と共に普通の人生を歩みたいと思っています。手を汚し過ぎたこんな私ですが、彼女は私が極道のいない世界を実現して、引退することを信じ、いつまでも待ってくれています。だからこそ、私は1日も早く新世界を実現させなければならないのです。あなたの描いた新世界こそが私の希望なのです。」

 

近藤さんがそう話すと、ずっと横で話を聞いていた白田会長が口を開いた。

 

「静かなるドンと呼ばれるお前さんが、そんなにしゃべるとは、めずらしいのう。それほどまでに新世界の実現を望んでおるということか。おい、タケル君。これほどまでに心強い味方はおらんじゃろう。警察が政府の下の組織である以上、頼れる戦力は限られてしまうからな。これからは、新鮮組に新世界ノアの警備を任せるといい。近藤静也は信じていい男じゃ。新鮮組の当分の資金はわしが何とか用意しよう。しかし、当分と言っても新鮮組は関東最大の勢力じゃ、持って半年が限界じゃ。その辺はなんかアイデアがあるか、お前さんたち。」

 

近藤さんが僕よりも先に話す。

「常に資金はぎりぎりの状態です。出来る限り、組が維持できる依頼のみを受けて政府との繋がりを保っていましたので。今回、政府が依頼した暗殺は懸賞金額が大きいため受ければ、かなり資金繰り楽になるのですが、引き受けないつもりです。新世界ノアを実現しようとする同志に手を出すわけにはいきませんし、いつまでも政府に依存していては、正しいと思うことが出来ません。」

 

それに対して、僕の考えを述べた。

 

「まずは、今日全然、まともに話せていなかったので、近藤さんの話を聞くことが出来て、本当にうれしいです。僕の描いた新世界の実現をやくざの人たちまでも願ってくれているとは思いもしませんでした。近藤さんのような人が関東最大の勢力を誇る新鮮組の総長を務めていることが、驚きですし、とてもありがたいことです。

 やくざの方々への資金繰りに関してですが、僕にアイデアがあります。僕たちは、今回の革命で政府と戦うことで繋がっている暴力団から命を狙われるかもしれないと毎日、不安を抱いています。僕たちは地域の方々と協力して自警団を組織していますが、普通の一般人です。多くの人が不安や恐怖を抱いています。

 そこで、やくざや暴力団の方々が組織の解散を宣言してもらいたいのです。そして、そのまま、革命家たちを守る組織を作るのです。暴排条例や暴対法があるので、一旦、解散を宣言しなければ、資金を渡すこと自体が違法となってしまいます。今、日本は国民の多くが変革を望んでいます。さらに、暴力団から殺されるかもしれないという恐怖が無くなるのであれば、多くの人達が資金の援助を行うに違いありません。これをビジネスとして成り立たせようと考えています。

 今、NEXT INOVATIONにシステムの開発を依頼していますが、監視カメラを中心にした警備会社を作ります。名前はノア・セキュリティです。ノアの提供するホームセキュリティサービスは、一つは現在の大手セキュリティ会社と同様にドアの開閉を感知するものや空間センサーを使い、異常を感知して、ノア・セキュリティに通報するものです。ここまでは一般的なセキュリティサービスと変わりませんが、監視カメラを設置しているため異常を感知した場合に、カメラの映像から警備員によって本当に異常が発生しているのか誤報なのか確認が出来ます。もし、本当に危機的状況であれば、電話をかけるよりも先に110番通報します。また、その映像を録画し、証拠として警察に提供することが出来ます。流石に証拠があるのに警察が動かないということはないはずです。

 また、新鮮組の組員には街のパトロールをしてもらい、街の治安を守ってもらいます。また、ノア・セキュリティ本部から危機的状況が迫った場合には、近くにいる新鮮組の組員も駆けつけて、市民を守ってもらいたいと思っています。命を懸けて市民の安全を守っていれば、その積み重ねで、国民も必ずやくざに対するイメージが変わってくるはずです。

 そして、近藤さん。ノア・セキュリティの収益は、新鮮組に分配します。新鮮組や傘下の組に守るエリアを与えて、事件がなく治安の良いエリアにより多く分配するようにします。やくざの面子にかけて、地域の安全安心な暮らしを守って頂けないでしょうか?ノアの革命家やもちろん、新世界を望んでいる国民はかなりいますので、かならず協力してくれると思います。また、芸能人などは新世界ノアの革命家として影響力がある人達です。何としても守って頂きたいのです。そこで、有料オプションとしてボディガードや警備員を派遣します。さらに、監視カメラの映像を常にクラウド上に録画しておく安価なサービスも提供します。これがうまくいけば、資金面の問題は解決できるかもしれません。心優しい近藤さんにこれ以上、汚い仕事をさせませんよ。」

 

僕は恐怖を抱いていたが、それはいつの間にか無くなっていた。近藤さんの一つ一つの言葉に強い正義感やとても優しい心を感じたからだろう。やくざを恐れていたがこのような人が組織のトップにいて、やくざの世界を何とかしようとしてくれていたことを知るとどこか安心さえ感じていた。話をしてくれた近藤さんに僕はいつもの感じで話を返すことが出来るようになっていた。

 

近藤さんは僕の提案に次のように答えた。

「流石、タケル君です。新世界ノアが実現するまでもなく、新鮮組を理想の組織に変えることが出来そうです。暴排条例や暴対法は政府がやくざを独占するだけではなく、暴力団やくざから組員を足抜けさせないための法律でもあります。この法律によって組員はやくざを辞めたとしても、社会でカタギとして働き生活していく上で、様々な制限が科せられます。ただでさえ、社会でうまくなじめずにアウトドロップした人間が多いのです。一般の人々よりも厳しい条件で生きていかなければならないため、足抜けしてもやくざに戻る人が非常に多いのです。

 もともと、やくざはみかじめ料を貰って人々の用心棒を引き受けるのが本来の姿です。やくざの組織を合法的に作り直し、なおかつ近代的な仕組みを取り入れ進化させています。ボディガードや警備員といった仕事は今までの仕事とあまり変わりませんので、組員の者にも仕事が務まると思います。これなら、組を解散させても大切な家族が路頭に迷うこともありません。もう、新鮮組の大切な家族に残酷で汚い仕事をさせなくて済みます。街の治安もずっと良くなるはずです。組の面子にかけてでも、国民のみなさんの安全をお守りします。日本政府だけでなく、メディアや多くの国民がやくざや暴力団を潰そうと考える中で、新世界を提案しているタケル君がやくざでも、現実的にやり直せる世界を考えてくれていて本当に感謝します。感動で一杯です。」

 

近藤さんがそういうと僕は戸惑いながら答えた。

「実は、僕も最初は暴力団ややくざは壊滅するべきだ。無くなるべきだ。なぜ、警察や自衛隊は無くそうとしないんだと思っていたのです。申し訳ありません。おそらく、政府やメディアによって、国民がやくざを忌み嫌うように仕向けているのかもしれません。僕が、やくざと手を組まなければ、革命を成功させることができないと思ったのは、革命家たちが命の危険を感じていたら、ノアに協力しようと思っても出来ない人がいたり、声を挙げられなくなってしまうからです。それに、革命を起こそうと考えた自分自身の命を守るために考え出したことなのです。もし、新鮮組のような大きな組織が「組の解散」と「国民を守るために命を懸ける」ことを宣言してくれれば国民は安心して、不信感を持っている政府に対して思っていることをぶつけられるようになると思います。勇気が無くて行動に出られなかった人たちも、協力してくれるはずです。僕こそ、新鮮組の総力を挙げて、ノアを命懸けで守ろうとしてくれている近藤さんには感謝しかありません。新鮮組の総長が近藤さんで良かったです。

・・・ところで、新世界ノアの革命家を暗殺するよう、政府の依頼を受けているのだと思いますが、それを無視していいのですか?政府に逆らう形になるのではありませんか?」

 

近藤さんは答える。

「その通りです。最初に言った通り、今は新世界ノアの革命家を消すために新鮮組は動いていることになっています。自殺に見せかけることや行方不明として処理されるように殺すことが難しいという理由を伝えて、何とか時間稼ぎをしていますが、新鮮組の裏切りがバレるのも時間の問題です。」

 

それを聞いて、僕は答える。

「裏切りがバレたら、政府は新鮮組を一斉検挙に動き出すのですか?」

 

すると近藤さんは意外な答えを話した。

「もし、新鮮組が裏切れば、おそらく、政府は組織を壊滅するつもりでしょう。しかし、政府にとって私たちが捨て駒だということは初めから分かっていたことです。ただ、政府の言いなりになっていたわけではありません。政府と取引する場合は裏口座を使うこともありますが、証拠を残さないために現金や金塊の受け渡しが行われます。政府も暴力団と同じように現金を受け取る受け子を用意していますから、直接、政治家が受け取るようなことはしません。その受け子を追跡して、政治家が現金や金塊を受け取る証拠を押さえています。それも、1人だけではありません。これまでに数えきれないほどの依頼を受けてきましたので、大物政治家や裏で糸を引いている官僚が受け取っている現場の証拠を動画で押さえています。これを、取引に使って一斉検挙はさせません。」

 

 僕はそれに対して答える。

「そんな証拠があるのであれば、動画をアップロードして後悔すれば、政府はもう終わりなんじゃないでしょうか?この革命もすぐに終わるかもしれません。その動画、利用させてくれませんか?」

 

 近藤さんは首を振って答えた。

「万が一、致命的な動画が出回ったとしても、政府は簡単にどんな重要人物でも切る連中です。動画に出ている人物が勝手にやった事だとして、報復に新鮮組を徹底的に壊滅させるでしょう。もし、公開せずに取引に使えば、その大物政治家や官僚が必死に新鮮組の一斉検挙を止めさせるでしょう。申し訳ありませんが、これは組の家族を守る大切な切り札なのです。切り札を使ってしまえば、政府と交渉する材料を失ってしまいます。」

 

「なるほど、それなら仕方ありませんね。僕たちも心強い新鮮組のみなさんを失う訳にはいきません。そして、暴力団と共謀して政府の転覆を図ったとして、追い詰められた政府が強硬手段に打って出る可能性もあります。交渉する材料は残しておいた方が良いかもしれませんね。」と僕は言った。その後、しばらく何も言わずに聞いていた白田会長が口を開いた。

 

「とりあえず、新世界ノアと新鮮組の同盟はうまくいったようじゃな。

じゃが、これで政府からの脅威は無くなったわけではない。一刻も早くせねばならんことがある。政府は新鮮組の他にも鬼州組、海外マフィアにも暗殺の依頼をしておる。もし、新鮮組が新世界ノアを守り、鬼州組と海外マフィアとの抗争になれば、勝ち目がないのはもちろん、新世界ノアの革命家や新鮮組にも膨大な数の犠牲者が出てしまい。その後は、どちらの組も警察と自衛隊が出動して、完全壊滅させて政府が信用を取り戻すことに抗争を利用するじゃろう。その上、新世界ノアは反社会的勢力と手を組み政府の転覆図ったとして警察はノアの革命家に対しても一斉検挙を行うじゃろう。大勢の命が失われて、わしもお前さんたちもみんな逮捕されておしまいじゃ。そうならんためにも、鬼州組を何としてでも、こちら側へ引き込まなければならん。

近藤、至急、幹部を集めて鬼州組の本部に交渉へ行くぞ。わしは間を取り持ってくれるよう獅子王総裁には話をつけてある。」白田会長がそういうと近藤が「分かりました。至急、幹部を集め、大阪へ向かいます。」と言い「わしらは一刻も早く同盟を結びに大阪へ向かわなければならんから、これで切るぞ。また連絡する。」と白田会長がいってzoomは終了した。

 

2021年4月2日、「新鮮組と鬼州組。日本極道界の命運をかけた会合。」

僕はもちろん家に引きこもっているので、大阪にはいかなかったが後日、聞いた話をここに記しておこうと思う。長年、因縁の仲であった新鮮組と鬼州組、日本の極道において最大の二大勢力のトップと幹部、傘下の組長たちが勢揃いし、会合が行われた。

白田会長が関西で大きな力を握る獅子王一徹総裁への口利きにより、これが実現した。獅子王総裁は表向きでは海運業を営んでいるが、裏社会では関西極道界のご意見番的な存在であり、鬼州組の総長であっても耳を傾けなければならないほどの超大物人物であった。

 新鮮組の近藤は、幹部さらには傘下の組長たちを引き連れて鬼州組の本部へ入り、大きな和室の部屋で、会合が行われた。そこには、白田会長と仲裁役である獅子王総裁の姿があった。

 

 因縁を抱えた新鮮組と鬼州組の総長や幹部、傘下の組長が揃い、対面する形となっていたが、獅子王総裁の顔を立て、双方が静まり返っている。最初に口を開いたのは獅子王総裁だった。

 「今、新世界ノアの革命によって世の中が大きく動いておるのはここにいるみなさんがご理解いただいていることと思う。極道界は、このまま政府側につくのか、新世界ノア側につくのか、もちろん様子見をする組も多いと思うが、今回は選択を間違えると組を壊滅に追い込まれる事態になると白田会長から忠告があった。今から詳しく説明してもらう。極道界の命運がかかっておる。しっかりと聞いてくれ。」

 

 白田会長は今後、想定される最悪の可能性と極道界の生き残る道について話し始めた。

「これから話すことは、極道界の命運にかかわる重要な話になる。心して、聞いてくれ。今、政府は新世界ノアの革命家たちに莫大な懸賞金をかけ、極道界や海外マフィアを使って消そうとしている。しかし、これは罠じゃ。

『自殺に見せかける』、『死体を消して行方不明者にする』など条件付きではあるが、平均で通常の10倍を超えるような金額の懸賞金にしておる。これは明らかに異常じゃ。もう既に、このうまい話に乗り暗殺を実行した組もおるじゃろう。しかし、それは今すぐやめろ。通常なら政府と極道界の信頼を保つために懸賞金を支払い、その後、警察は捜査しないが、今回は国民の多くが政府と暴力団との関係性を疑っとる。なぜ、暴力団を無くさないのかと国民が声を挙げておる。今、政治と暴力団の関係に国民の目が集中しておるのじゃ。

国民の信頼を回復したい政府が莫大な資金を使って新世界ノアの革命家の暗殺を命じておるんじゃ。新世界ノアの革命家を極道界に暗殺させて、その後は、警察と自衛隊を派遣して全ての暴力団を壊滅させれば、政府は信用を取り戻すことが出来る。その上、支払った懸賞金も没収するじゃろう。邪魔な新世界ノアの革命家を消せて、なおかつ、国民の信頼を取り戻す一石二鳥の策じゃ。今、下手に動けば、極道界は無くなってしまうぞ。」

 

獅子王総裁:「白田会長の話も分かるが、今までの政府と極道界との信頼を築いてきたがそれが完全に無に帰するぞ。今まで政府の邪魔者を消し、極道界は汚れ役を買ってきたが、全ての暴力団を壊滅させれば、今後、政府はどこに依頼を行う。それでなくとも、今は政府への不信感が高まり反抗する国民も少なくないぞ。」

 

白田会長:「海外マフィアじゃ。チャイニーズマフィア、ロシアンマフィア、台湾マフィア、韓国マフィア、シシリアンマフィア、イタリアンマフィア、メキシカンマフィア、上げたらきりがない。政府からすれば国産を外国産にするだけの話じゃ。」

 

獅子王総裁:「しかし、どの国も政府と繋がっておる。海外のマフィアでは、その国の政府との関係性もある。日本の極道界のように政府の都合のいいように管理するのは難しいんじゃないのか。いつも通り、ニュースで一時的に騒いで事件が発覚した組員の逮捕で済むだろう。それなら、身代わりのもんを出せば、いい話ではないか。」

 

白田会長:「今の日本政府は暴力団を壊滅させて信用を取り戻し、海外マフィアを使って暗殺させた方が、利が大きい。ここまで、国民から疑いの目を向けられていれば、暴力団を壊滅させて、政府との繋がりがないことをアピールしたはずじゃ。それに、日本の極道界を壊滅させた後に、海外マフィアが拡大したとなれば、日本の暴力団を無くさなかった正当性も言える。むしろ、海外マフィアに新世界ノアの革命家を大量暗殺させて、日本の暴力団を後で新たに復活させればいい。むしろ、海外マフィアには少々暴れてもらったほうが都合がいいくらいじゃ。暴力団必要悪だから潰せないと国民に訴えれば、国民も暴力団の存在を認めるじゃろう。わしらと新世界ノアの革命家が大きな犠牲を出し、政府の一人勝ちじゃ。また、元の世界に戻る。」

 

獅子王総裁:「なるほど。政府にとっては極道界を潰しても問題ないか。むしろ、国民の信頼を回復させるために壊滅を選ぶ可能性は高いな。ここまで、信頼を築いてきたわしらも政府にとって都合が悪くなれば切り捨てられるか・・・。なるほど、筋が通っておるな。だったら、新鮮組、鬼州組は共に今は下手に手出しをするな。政府の依頼を受けているのであれば、今すぐ組員たちに止めさせろ。」

 

近藤静也:「はい。政府の陰謀論に関しては、既に白田会長から聞いております。新鮮組は手出しをしないよう幹部連中や傘下の組にも言ってあります。それだけではなく、新鮮組は新世界ノアを守ることを決めました。」

 

獅子王総裁:「ほう。政府を裏切り、新世界ノア側につくか。鬼州組は今、政府の依頼に関してどうしておる。」

 

鬼州組六代目である海腐雄二は答えた。

海腐雄二:「今回の件、私も白田会長の考えと同じです。鬼州組も幹部連中と傘下の組長には手出しせんように伝えてあります。これほどまでに多くの国民が政府と暴力団のとの関係に疑いの目を向けるようになった時点で、政府はいつ暴力団を切るか分かりません。信用回復のために大きな行動に出ることは十分考えられます。」

 

獅子王総裁:「日本最大の規模を持つ鬼州組が政府の依頼を受けないとなると、シノギはどうする。世界のマフィアと比べても断トツの収益を誇る年間8兆円を超える収益は、今後無くなることになるぞ。日本の極道の半数以上を占める鬼州組じゃ。シノギが無くなれば、組をまとめることが出来んぞ。」

 

海腐雄二:「それには、今一番頭を悩ませとります。今、下手に政府の依頼を受ければ、組の壊滅もあり得りえます。政府の依頼を積極的に受け入れてここまで組織を大きくしています。年間の収益は8兆円を超える。この大部分を占めるシノギがなくなると考えると組織を維持するのは不可能に近い。組員たちが暴走して政府の依頼を受け、新世界ノアの革命家を暗殺するのも時間の問題です。」

 

近藤静也:「海腐。組員たちの暴走は何とか止めてくれ。新鮮組は新世界ノアを命を懸けて守る。もし、鬼州組の組員が新世界ノアに手を出すことになれば、抗争に発展しかねない。関東最大の新鮮組と関西最大の鬼州組が抗争になれば、相当な被害が出るのは間違いない。そして、政府は両組織を壊滅させ、新世界ノアは新鮮組と手を組んで政府の転覆を図ったとして、逮捕されてしまう。政府の一人勝ちだ。それは、何としてでも避けたい。

新鮮組は解散を宣言する。そして、新世界ノアを守る組織として、だけではなく地域の警備やボディガードとして収益を上げる。新世界ノアはそのセキュリティサービスの会社であるノア・セキュリティの報酬を分配するように約束してくれた。

鬼州組も解散を宣言してくれないか。今の縄張りのシマを警備するだけで構わない。地域が安全なほど、報酬の分配は多くなる。鬼州組ほどの強力な抑止力があれば、誰も犯罪は起こせないだろう。鬼州組も新世界ノア側につき、彼らを守ってくれるなら収益の確保はこちらで何とかしてみせる。8兆円とまではいかないかもしれないが、新世界ノアを支持している国民は多い。違法ではなく正当なビジネスとして国民に忌み嫌われることなく、感謝されて資金が手に入るんだ。もう、違法なシノギや抗争なんかで命を落とすような極道の世界は無くなるべきなんだ。今の政府の言いなりになっていては、いつ切られてもおかしくはない。それに、今の政府はもう持たない。国民の信用を完全に失ってしまっている。どちらについた方が得策か頭のいい海腐なら分かるだろう。」

 

海腐雄二:「わしに鬼州組を解散させれ言うんか。わしは歴代の総長達が悲願の夢であった全国制覇を果たすちゅう大きい野望があるんじゃ。今、鬼州組は日本全国の極道の半数以上を占めとる。年間の収益は8兆円じゃ。世界で断トツの収益を持っとる。新鮮組とやり合っても負けることはない。関東のシマを取って東に侵攻し、全国制覇を成すのも目前にして解散なんかできるかい。」

 

近藤静也:「今、国民の目が暴力団に集中している時に、新鮮組と抗争になれば、政府は間違いなく警察と自衛隊を使って、徹底的に壊滅させるぞ。海腐、俺は何としてでも、新世界を実現したい。今の暴力団みたいに違法なシノギをしなければ組織を維持できない世の中ではカタギにも迷惑をかけてしまう。政府の言いなりで暗殺を引き受けるのもこれ以上我慢ならねぇ。それに、大切な組の家族が命を落とすようなシノギをせずに、戦後のような国民に愛される極道の世界を作りたい。新世界ノアは今の政府とは違い、暴力団を弾圧するのではなく、カタギの組織として国民を守り収益が取れる仕組みを作ろうとしている。もし、新世界を実現したなら、新鮮組は鬼州組の盃を貰ってもいい。鬼州組の傘下になろう。これで誰も傷つかずに、全国制覇をも成し遂げられるだろう。」

 

海腐雄二:「鬼州組を解散して全国制覇もあるかい。お前の言う組織が無くなっての全国制覇とはどういう意味や。」

 

近藤静也:「形だけの解散は行ってくれ。暴排条例や暴対法がある以上、民間企業からの出資は受けられない。資金が受け取れるのは国や裏ルートに限られてしまう。裏ルートで現金を回せばいいが、新世界ノアのクリーンなイメージは壊したくない。今ある組織や縄張りはそのままで構わない。その地域の治安を守ることで収入が得られるようにする。新世界ノアは、違法なみかじめ料をカタギの世界の警備やボディガードとしての仕事にすることで合法化する。8兆円の収益だが、国民一人が年間10万円を支払えば約12兆5千億円の収入になる。月に8000円程度の支出だ。しかも、新世界ノアが政権をとれば、国家予算からも治安の維持として計上する。これは不可能ではない。鬼州組の盃を貰って傘下に入りというのは、関東のシマを鬼州組にやってもいいという意味だ。ただ、うちの組の家族のシノギはきちんと提供してもらうぞ。」

 

獅子王総裁:「形だけの解散なら何の問題もないじゃないのか。わしも違法なシノギをせずに国民の治安を守って今の収益を上げられるなら、これ以上の提案はないと思うぞ。政府側の要求を今後も受け続けて、いつ政府に切り捨てられるか分からん不安を抱えながら極道界を維持していくのはしゃくだ。おそらく、政府は暴力団を壊滅させる以外に信用を回復させる方法はない。このまま、政府に利用され続ければいつかその時が来るやもしれん。国民の信頼を完全に失った政府の暗殺依頼を受けるよりは、新世界ノアを実現して、国民を守ることの方が良いではないか。」

 

海腐雄二:「・・・少し考えさせてください。この私が長年続いた組を形だけだとは言え解散させることを私一人で判断しかねます。かと言って、政府の依頼を受けて、組を壊滅させる訳にはいきません。政府との関係を切って、麻薬密売や賭博、強奪など違法なシノギを続けても収益はたかが知れています。警察が組の取り締まりを強化して、組は縮小の一途を辿ることになります。それどころか今の政府の現状を考えると、国民の信用を回復させるために一気に壊滅に追い込むことも考えられます。確かに、新世界ノア側につくのが極道界の生き残る唯一の手段かもしれません。

近藤、もし、新世界ノアを実現したら盃を受け取り傘下に入るんじゃな。違う形ではあるが全国制覇を成し遂げるのはこれ以外にないかもしれん。会合のあと、幹部連中と傘下の組長で前向きに考えよう。長年、睨みあってきたが手を取り合う時が来たかもしれんな。」

 

獅子王総裁:「よし、日本の極道界の方向性は見えてきたかもしれんな。まだ、政府にはこちらの動向は伝えるな。鬼州組の意志の決定と新世界ノアとの調整が済み次第、一時的に新鮮組と同盟を結び、鬼州組と新鮮組は解散を宣言する。その上で、新世界ノアの影響力を使って国民を守る組織へと移行していく。これで良いな。

海腐、事態は急を要する。新世界ノアの革命者の首が新鮮組と鬼州組から上がらんかったら、政府が勘付くのも時間の問題じゃ。明日までに決定してくれ。」

 

近藤静也:「はい。新鮮組は異存ありません。」

海腐雄二:「鬼州組も前向きに検討します」

 

獅子王総裁:「白田会長、あなたのお陰で良い会合が行えました。ありがとうございます。また、あなたには借りが出来ましたね。」

 

白田会長:「いやいや、こちらこそ。総裁の仲裁がなければ詰んでいたところじゃった。今回はむしろ、借りが出来たのはこちらじゃ。新世界でのシノギじゃったら、わしに任しとったええ。今より、大きく稼げるいい話を持って来よう。新しい世界が誕生するんじゃ、世界中の金が動き出すぞ。

わしは新世界ノアを誕生させ、新しい世界ちゅうもんを見てみたい。戦後以来、国民が立ち上がって国を本気で変えようとしよるんじゃ。総裁もどうか新世界ノアの連中を応援してやってくれんか。」

 

獅子王総裁:「白田会長が本気で新世界ノアにつくというのでしたら、私も勝手には手出しは出来ませんよ。鬼州組が決断した時には、私も全力で新世界ノアの実現に力を貸しましょう。それに、白田会長はどこか楽しんでいるようにも見えます。私も、その楽しみに今度混ぜてください。」

 

こうして、日本最大のやくざである新鮮組と鬼州組の同盟は鬼州組の意思決定を待つ形で、会合は閉じることになった。

 

2021年4月3日、「新鮮組と鬼州組の同盟。ノア・セキュリティへの合流」

白田会長から、電話があった。

「おう、タケル君か。白田じゃ。今、新鮮組と鬼州組が正式に同盟を結んだ。今から、ラインで動画を送るから編集して、国民のみんなに発表してくれ。ノア・セキュリティを何としてでも成功させるんじゃ。日本の極道界を味方につけることが出来れば、新世界ノアの革命家は今よりはるかに安全に活動が出来るようになる。新世界の実現に大きく前進するぞ。ただ、その発表によって政府に極道界の裏切りがバレてしまう。政府はおそらく次に海外マフィアに頼るのは間違いない。流石に、暗殺の依頼を警察や自衛隊にするわけにはいかんじゃろ。政府公認の指定暴力団の代わりに、今度は政府公認の海外マフィアが、今まで新鮮組と鬼州組が持っていたシノギを獲りに進出してくるぞ。まだまだ、油断は出来ん。守りを固めるため前回も言ってたように城を作らなければならん。わしは、そのために少し、動かないかん。後は頼んだぞ。」

 

 

白田会長は、凄い行動力と得体のしれない人脈を持っている・・・。また、凄い人を連れてくるのだろう。僕は早速動画を編集し、YouTubeや様々なSNSにアップロードを行った。

 

「国民のみなさん。もしかしたら、政府と暴力団が繋がっているかもしれないと不安を感じていたかもしれませんが、本日、日本の極道界の最大勢力である新鮮組と鬼州組が同盟を結び、そして、解散することを発表しました。動画をご覧ください。」

 

(動画では前回行われた会合と同じ場所が映っている。中央には獅子王総裁が仲裁役として立ち、司会進行役を務めている。その前方左側に、新鮮組三代目総長近藤静也、右側に鬼州組六代目海腐雄二がそれぞれ座っている。その後方には参加の組長や幹部がずらりと並んで椅子に座っている。画面からは切れているが、極道界において歴史的、重要な宣言になるため本部の外側迄、組員が溢れていると思われる)

 

獅子王総裁:「これより、私が見届け人となり、新鮮組3代目近藤静也と鬼州組六代目海腐雄二の双方に極道界における重要な決定を宣言してもらうこととする。では、新鮮組3代目近藤静也」

 

近藤静也:「新鮮組は本日をもって組を解散します。そして、新鮮組傘下の全ての組も同時に解散することをここに誓います。」

 

獅子王総裁:「次は鬼州組六代目海腐雄二。」

 

海腐雄二:「鬼州組も新鮮組と同様本日をもって組を解散します。そして、傘下の全ての組も同時に解散することをここに誓います。」

 

獅子王総裁:「では、この誓約書に新鮮組と鬼州組の総長並びに傘下の組長は署名してくれ。まずは新鮮組とその傘下の組長が順番に署名を行ってくれ。その後、鬼州組とその傘下の組長が署名を頼む。」

 

誓約書に新鮮組と鬼州組の組長が次々に署名を行っていく映像がしばらく続いている。

その後、獅子王総裁からの発言があった。

「確かに、この獅子王一徹が新鮮組と鬼州組の解散を見届けた。双方の組は今後、組同士での抗争や反社会的行為を一切しないこと。これらの行為をする組はこのわしが許さん。わしの顔に泥を塗ると思え。

今後、新鮮組と鬼州組は解散後、カタギとして新世界ノアを支援する。総勢3万人の組員の生活を維持するために、ノアの革命家や国民のみなさんを命を懸けて守ることによって、生計を立てる事。元極道の面子にかけて、国民の皆様方の安全安心な街を作るんじゃ。海外マフィア、街の半グレたちから治安を守れ。良いな。」

 

「もう少し、動画は続くのですが重要な部分だけにしております。みなさん、これは歴史的な出来事です。警察が長年壊滅させることが出来なかった大きな指定暴力団は全て、解散しました。それも、一切、血を流すことなく平和的な解散となったのです。

これで、年間の行方不明者9万人と言う戦争時と変わらない死亡者数である日本の治安は劇的に良くなると思います。国民のみなさんが今以上に、政府に対して自分の思っていることを発言できる世の中になることと思います。

 

ただ、国民のみなさんにお願いがあります。やくざのみなさんに、国民を守る警備員やボディガードの仕事を提供することが条件で解散に応じてくれたのです。新世界ノアが暴力団を敵に回せば、僕たち革命家に命はありません。仲間の同志たちも命の危険に晒してしまいます。解散した元組員の人達に仕事を与え、普通の生活が出来るようにすることは日本の治安を良くする上で絶対不可欠なのです。

もし、新世界ノアが解散した暴力団の人達を警備員やボディガードなどの仕事で受け入れなければ、どうなるでしょうか?今は全国の大きな暴力団が全て解散しました。今まで、組の組織として統率されていた元組員の人達が、何の縛りもなくバラバラに生活していくのです。しかも、暴排条例や暴力団対策法があるため、元組員の人達は、一般の人々よりも厳しい制約の中で暮らしていかなければなりません。公務員など国の仕事はもちろん、民間企業での就職でも受け入れない会社は多数あると思います。これでは、解散した組の人達は安心して生活していくことが出来ません。全国の暴力団の元組員たちが、就職できず、路頭に迷うことになれば、一体どうなるでしょうか?再び違法なシノギをして、生きていかざる得ない人も出てくるでしょう。これでは、暴力団が解散しても日本の治安は決して良くなりません。

 

 新世界ノアはまだ、規模としては大きくありませんがノア・セキュリティがあります。みなさん、どうかノア・セキュリティのサービスを利用していただけないでしょうか?元新鮮組と元鬼州組の組員の方たちに、街の治安を守って頂く代わりに、ノア・セキュリティの売り上げを分配することを約束しました。治安の良い地域ほど、多く分配するのです。もちろん、違法なシノギに手を出した組は責任として、報酬を減らします。そのようにして、治安維持のために元やくざの方々と協力していきたいと思います。

本当は治安を守るために政府がやるべきことなのです。もともと、学歴差別をする社会を生み出し、学歴のない人達が生きていきにくい世の中を作ったのは政府です。そして、その結果、社会でうまくやっていくことが出来ず、ドロップアウトする人々を次々に生み出してしまったのです。そんな社会でうまく生きていけない人達のその受け皿となっているのがやくざです。任侠道で教育し、礼儀や作法を身に着け、戦後は民衆を守る心強い味方でした。しかし、そんなやくざに対して国民はみかじめ料を支払わなくなり、違法なシノギをしなければ組織を維持できず、暴力団化が進みました。その上、政府は民間からの資金調達が出来なくなるように、暴排条例や暴力団対策法などを制定し、暴力団を徹底的に排除する行動を起こしています。ただ、暴排条例や暴力団対策法で暴力団に資金が流れないようしていたのにもかかわらず、日本の暴力団は世界トップレベルの収益を手に入れていたのです。警察や自衛隊を使い暴力団を壊滅することもしていません。一体、政府は何がしたいのか分かりませんし、信用できません。

 

 今までは、理不尽に裏でみかじめ料を支払っていた人たちもいると思います。一部の人が犠牲になるのではなく、今後は国民みんなで支払って、治安を守ってもらうべきです。今後は海外のマフィアが新鮮組と鬼州組の後のシノギを狙って勢力を拡大してくるかもしれません。それから、国民たちを守ってもらうのです。

 

ようやく暴力団が全て解散したのです。そして、その元暴力団の人達が、今度は国民を守りたいと言っているのです。このチャンスを逃してはいけません。国民の人達が政府に対して声を挙げても、命の危険を感じることが無いようにこの世の中を変えたいのです。

 

やくざの人達に傷つけられた人もいるかもしれません。絶対に許せない人もいるのかもしれません。しかし、憎しみを抱く限りはこの負の連鎖は終わることがありません。戦争と同じです。

 

暴力団を抜けた元組員の人達は今後、違法なシノギに頼ることなく、社会の中で生きていかなければなりません。

 

暴力団の方に憎しみを抱かないでください。非難をしないでください。拒絶しないでください。共に社会を作っていく仲間として受け入れてください。いつしか、恐怖していた人たちがきっと心から頼れる勇敢な人たちだと思える日が来るはずです。手を取り合い理想の国を目指そうではありませんか。

 

ノア・セキュリティに力を貸してください。よろしくお願いします。」

 

 その後、日本中の人達が協力しようとノア・セキュリティのサービスを利用する人たちが殺到することになった。新世界ノアが暴力団を全て解散させることができたのだ。日本の治安にとってこの大きな前進を無にすることは大きな損失である。みんなでセキュリティサービスを利用して町全体に監視カメラが増え、街の治安が良くなるうえに、元暴力団の人達が命がけで街の安全を守るのだ。そして、新世界ノアを望む人たちは、命の危険を感じることなく声を挙げられるようになる。今まで、怖くて政治的な発言が出来なかった人たちも気軽に声を挙げられるようになった。これはお金を出す価値があると考えたのだろう。

 

数日後、新鮮組と鬼州組は傘下の組を引き連れて、大阪警察署に解散届を提出した。全国から暴力団の組長が集まり、大阪警察署の近辺は警察や自衛隊を派遣する厳戒態勢の中で行われた。多くのメディアが招かれており、世界中が注目する一大ニュースとなった。極道界の解散は、事実上の政府への裏切り行為であった。それと同時に、「やくざ」、「新世界ノア」、「民衆」という三大勢力の同盟を意味するものであった

 

これによって、新世界ノアの勢力拡大はより一層、加速することになった。政治に対する「恐怖」が一気に和らぐことになったからだ。政治的発言をすることに恐怖を感じていた大人だけではなく子どもや学生も革命に参加し、新世界ノアの拡散はもう止めようがない状態となった。