#13..第1章(第一節)若き元暴走族の総長が県知事選をかき回す

日本のノア革命初期⑭若き元暴走族の総長が県知事選をかき回す

2021年3月28日、「竜也、命を顧みず走る。」

ノアの革命は命の危険を伴う可能性があるため、警備を万全にした事務所で動画配信による選挙活動だけにするよう言っておいたのだが、気持ちを抑えきれないのか、選挙カーに乗って演説をして回った。

ノアの教典やノア日記を見ている暴走族の元メンバーも多く、竜也を守ろうと選挙カーの前後を車やバイクで囲み、街頭演説をする場所までの道のりは選挙カー版の暴走族のようであった。ただ、騒音のするような改造した車やバイクは流石に追い返していたようである。

 

街頭演説は一部がテレビで放送されていた。竜也が映っている・・・

「みなさん、初めまして。俺は今度、福岡県の知事に立候補した矢島竜也だ。俺の事をみんな知らないと思うんで、簡単に紹介したいと思う。俺は学生時代、将来役に立つかも分からねぇ勉強を強いられたり、勉強ができるかどうかで人間を差別する大人たちに反抗して、喧嘩に明け暮れていた。高校になった後は暴走族に誘われて仲間を作った。高校に通う意義を感じねぇからすぐに中退して、毎日、街をバイクで自由に走り回っていた。そしたら、いつの間にか仲間から慕われるようになり、総長まで上り詰めることになった。その頃の俺は、多くの住民たちに大きな迷惑をかけていたと思う。まともな人間たちから見れば、ただのクズだろう。そんな、俺だが3年前から社会になじめないアウトドロップした人間や不良少年を受け入れて更生する施設で働いている。こんな腐った世の中だが、社会で働いて、何とか生きていけるように支援しているんだ。若いころ街のみんなに迷惑かけてきた分、俺なりに社会貢献しようと必死で働いている。

最近、世の中に出回っている、ノアの本を読むようになって、世の中に対する考えが変わった。勉強が出来る人間がこの国で優遇されて、人の上に立って社会を動かしていくのが当たり前だと思っていたが、頭のいいお偉いさん方がやってる政治の方が国民を苦しめて、俺の若いころよりもクズじゃねぇか・・・。みんなは何のために勉強をやってるんだ・・・。

ノアの本は学歴で差別する社会を変えようとしている。俺が若いころ無理やり勉強を強要させてきた大人たちに違和感があったが、これでスッキリした。間違っているのはこの日本の制度だろう。

 俺にはここにいる仲間の他にも、もっと大勢慕ってくれている仲間がいる。勉強が出来ねぇ馬鹿ばかりだ。ここにいる仲間たちは、もしかしたら命を狙われるかもしれねぇからと俺の命を守ろうとしてくっついてきた馬鹿野郎たちだ。本当にありがてぇ。俺らは勉強してないが、仲間は大事にする。こういうことの方が、よほど大事なんじゃねぇか。社会に出た後はどこの会社も学歴があるかどうかで差別して見下して、まともな仕事はねぇ。馬鹿に残された仕事は肉体労働ばっかりだ。肉体労働で稼げてうまく生活をやれてるやつはいいが、そうじゃねぇやつも多い。肉体労働が合わねぇやつもいる、職場での人間関係がうまくいかねぇ人間もいる、怪我してそんな労働が出来ねぇやつも当然いる。肉体労働で耐えれないやつは大抵、少ない給料でギリギリの生活をさせられて地べた這いずり回って生きてる。その上、子どもを抱えたまま離婚してるやつも少なくない。そういうやつらは、自分の事を犠牲にして、まともに遊んでるやつなんていねぇよ。本当に、多くの仲間が、苦しい生活を強いられていることを聞いている。学歴の無い俺らには、限られた仕事の狭い世界でうまくやっていかねぇとまともに社会が受け入れてくれねぇ。俺は更生施設でも働いてるから、社会で生きていけねぇやつを山ほど見てきた。学歴が無いだけで何で差別されなきゃいけねぇんだ。就職するとき絶対に書かされる経歴の欄にまともな事を書けねぇ俺たちの気持ちが分かるか・・・。仲間の多くはな、いい会社に就職しようなんて初めから諦めちまってる。底辺の仕事をして惨めな思いをして、生きていくだけで大変なんだ。俺はこんな世の中を変えてぇ。俺は学生時代、大人たちに反発してやりたいように生きてきた、何にも縛られることなくバイクに乗って仲間たちと突っ走て来た。若者たち、聞いてくれ勉強よりよっぽど面白れぇし、仲間と言う人生で一番、大切なものを手に入れた。

勉強して学歴を手に入れて、世の中から優遇されて差別して国民を見下す側に回って、そんなことして本当に正しいのか?子供たちも大人もそれで幸せになれるんか?こんな世の中には反吐が出るぜ!

 

俺は政治を変えて苦しんで生活をしている仲間を助けてぇ。仲間を助けられたら、福岡のみんなも一緒に助けられるだろう!一石二鳥じゃねぇか。俺には学歴も立派な経歴もねぇ。あるのは「想い」だけだ。俺が県知事になって「想い」があれば、それだけで、世の中が変えられることを証明したい。立派な学歴や経歴、金や権力があるかしらねぇが、そいつらが国や県のトップになったところで、国民や県民を幸せに出来ないのは既に証明済みだろう。だったら、今度は俺らに託してみてくれよ。ノアのみんなが俺に託したのは新世界を作るために予算を引っ張ることだけだ。難しいことは考えんでいいと言ってくれた。後のことは任せろと。それだったら、勉強が出来ねぇ俺でも、やれるはずだ。

 

 福岡県のみんな!ノアの世界を知ってるか?もう、家や車を買わなくていいんだ。家や車を買って借金まみれになる必要はねぇ。それだけじゃねぇ。飯が食べられねぇやつもいなくなるんだ。俺が福岡県の知事になって県の金を使ってみんなの家を建ててやる。飯も用意してやる。それも、ただの家じゃない。高級ホテルに大幅グレードアップだ。飯もプロのシェフが作ったものを毎日食べられる。家事もしなくていいぞ。ホテルマンが全部やってくれる。もちろん、ホテルじゃなくて旅館も作る。好きな方に住んだらいい。税金は医療や教育、政治家や官僚、公的機関じゃなく、こういうもの使うべきじゃねぇのか!

 

 今までの歴代の県知事は立派な学歴や経歴があって、政府に繋がりがあるか知らないが、公共事業は商業施設や道路ばっかり作ってやがる。そして、医療費や教育、政治家や官僚、公的機関に使って県のみんなが全員、幸せな暮らしが出来る訳がねぇだろ。勉強が出来るお偉いさんはそんな事も分からねぇのか?一部のもんばっかり儲かって県のみんなは苦しんでるじゃねぇか。

 

 県の予算を取るだけなら、馬鹿な俺でも絶対に出来る。それを、みんなの家や食事、生活に充てればいいんだろ?それなら、俺にでも絶対に出来る。立派な学歴や権力など必要ない。俺はノアの世界が政治家や官僚の居ない世界にすることに賛成だ。政治はどんな国民にも出来るもんだと俺が証明してやる。学歴で選別された選りすぐりの頭のいい連中が、国民を騙すために脳みそを使うような仕組みはいらねぇ。国民や県民が苦しんでるのにテレビに映って偉そうに国を動かしている連中が俺は虫唾が走るほど嫌いだ。あんな馬鹿な連中が国や県を支配する仕組みをもう終わらせようぜ。馬鹿な俺が馬鹿だと言ってるんだから、大馬鹿野郎だ。政治を使って国民を苦しめてるんだから馬鹿だと言われて当然だろう!散々、学歴のねぇ俺たちを見下して馬鹿にしてきた連中に文句言われる筋合いはねぇ。

 

 予算さえ取れれば、その資金を使ってノアを支持する仲間が本の中の思い描いたあの世界を実現してくれる。俺はこの命に代えても、敵だらけの県議会から予算を引っ張ってくる。県議会の権力や圧力に屈しねぇ。だから、みんなも協力してくれ!」

 

 

このたった一回の街頭演説だけで矢島竜也の名前は全国に広がった。彼が放った一つ一つの言葉が多くの国民や県民たちの心に響き、日本中を震撼させたのだった。学歴があるのは当たり前で、地元に地盤のある権力者が政治家になることが常だった選挙において、竜也の演説は新しいリーダーの姿を予感させ、彼の姿に希望を見るようになった。

選挙カー版の暴走族のような光景は異様で悪い印象になるようニュースに取り上げられていた。この事でクレームを言ってくる人もいたが、それはごく一部の人間だった。それ以上に県民たちの心を動かし、過去にないような県知事選の盛り上がりになっている。グループラインには、竜也の演説に感動し、応援する声が続々と届いていた。

 

元暴走族のチームのメンバーが竜也を守るようにして走ったことで暴走族のような光景だったこと、さらには竜也が元暴走族のヘッドだったこともあり、悪い印象になるように報道したこともあり、すぐに謝罪の動画を作って公開した。

 

「交通の妨げになった人もいるかもしれない。そのことに関しては心から謝る。申し訳ございませんでした!」頭を深々と下げ、大きな声が響き渡る。

「でも、聞いてほしいんだ。ノアの活動家たちはみんな命の危険を感じている。だから、身体を張って俺の命を守ろうと仲間がついてきたんだ。そんな仲間のことを責めることは出来ない。むしろ、そんな仲間を誇りに思う。

確かに、迷惑をかけた人がいるなら俺たちも間違っていたかもしれない。ただ、この社会が間違っていると思うことに対して声をあげるだけで命の危険を感じる世の中の方がおかしいんじゃないか。

俺も選挙の時に選挙カーで拡張マイクを持って街を回っている奴らの事をうるせぇなぁといつも思ってる。同じことをやったんだと思って改めて反省している。県知事選でこれ以上、街頭演説はしない。迷惑をかけてしまう人がいる事と仲間が俺の命の心配をしてくれているからだ。動画で伝えられることを考えて、最後まで精一杯、戦う。県民のみんな、どうかご協力お願いします。」

 

僕は竜也の物凄いパワーのある演説に圧倒されていた。感動していた半面、不安になることもあった。あんな言葉遣いで本当に良いのだろうか?もはや、僕が思っているように民衆を動かすなんて出来なくなっている。大きな影響を与えたが、初めから僕一人で革命を統率できるようなことではないのだ。そんなことは初めから分かっていた。そもそも何の力も持たない人間に過ぎない。ここから僕の計画と大きくズレていかないか・・・暴動やデモになった時に止められるのか。それに国民たちへの印象はどうなっていくのか、他の政党と比べて異色中の異色であることは間違いない・・・。

 そう思っていると、個人ラインに白田官兵衛こと白田会長からzoomをするように、連絡があった。

 

「どうじゃ、うちの竜也は。面白いもんが見れただろう。あいつの言葉は人の心を動かす。警察や自衛隊と武力で争う戦いに引き込まれない限りは、正義はこちら側にある。それほどまでに、今の政治は悪い。お前さんは『闇が深いほど夜明け(暁)は近い』と言う言葉を知っておるか・・・。今の政府は少々やり過ぎてしもうとる。闇と関わりすぎて、暴走し、政府の悪事の一部が露呈を始めてきた。こんなもんは氷山の一角に過ぎんじゃろ。まだまだ、政府の闇が暴かれていくぞ。お前さんたちのような声が上がったことで、政府は一気に追い込まれておる。このまま、政治不信と新世界の思想が拡大すれば、政府は国をまとめる力を完全に失ってしまうじゃろう。闇社会にも繋がっておるワシが正義を語るのも変な感じじゃが、生きている中でこんなに面白いことに関われると思わんかった。大きく歴史が変わる時代に身を置いている感じがひしひしと伝わってきて、本当に今は年甲斐もなく、ワクワクしている。お前さんにも感謝しとるぞ。

 グループラインで、竜也の命を案じて事務所から出ないように忠告していたんで、悪かったがわしが竜也を街頭演説に引っ張り出した。あいつを責めんでやってくれ!まぁ、わしが言わんでも選挙の期間、あいつを選挙事務所に閉じ込めておくんは無理じゃろうけどなぁ。竜也の命ならわしの目が黒いうちは何が何でも絶対に殺させんようするから安心せえ。腕のあるうちの組のもんもあいつには内緒で竜也の周りを護衛させておったんじゃ。それからな、ここら辺のシマを占めとる組のもんにも、根回ししておいた。お前さんの事も気に入っておる。お前さんがおらんくなったら、この革命が面白くなくなるからな。わしの力が及ぶ範囲で、お前さんも守ってやるわい。ただ、政府が関わっとるから、わしの力がどこまで通用するか分からんからな」

 

 危険が及ばないように選挙運動は動画配信のみとあれほど言っておいたのに、仕掛けたのはこのオッサンかい・・・。それにしても、会話の内容が僕の人生からは考えられないような世界の話をしている。全く恐ろしい人だ。どんな世界に身を置いているのだろう。僕は恐ろしくて「・・・そそそ、そうなんですか。ありがたいです・・・。」みたいなことを、ずっと言っていたような気がする。白田会長は続けて話す。

 

「この戦いは目立つだけでも勝ちみたいなもんじゃ。わしらはおまえさんのノアの本を見て集まってきた。あの本を読まんような竜也でさえも心を動かして行動させたんじゃ。あいつが県知事に出馬するなんざ、おもしろ過ぎるわい。要は、もっと多くの国民にノアの本や動画を見させるかにかかっておる。それに関しては、今回の竜也は期待以上の働きをしてくれおったわ。お前さんもじゃが、あいつもわしの想像の上をいつもいきよる。あいつが今回、テレビで注目を浴びたことで日本中の人がノアに興味を持つことになった。しかも、あいつは元暴走族の総長で、学歴が無く、あんな無礼な話し方だ。しかし、何も飾らない本音をぶつけたあいつの言葉は国民にストレートに突き刺さる。あいつが県知事になってみろ、今までの常識をあいつはぶっ壊すぞ!

竜也に注目が集まれば集まるほど、新世界ノアも注目されることになる。これからこの党はさらに大きくなるぞ。おまえさんの活躍を期待しているぞ。わしをもっと楽しませてくれ。」

 

心臓のバクバクが収まらない。まだまだ、こういうジャンルの人と話すのは慣れないな・・・。命を捨てる覚悟は常にしているのだが、気持ちと身体は一体ではなく、身体は正直で恐怖に震えているようだ。こんな事では、この先が思いやられるな・・・。

あの人は敵に回せば恐ろしい人だが、味方をしてくれればなんて心強い人なんだろうと思う。僕以上に策士で、裏社会にも顔が利き、権力も資金力も持っている。前回、政党を作ったことも、政党への資金集めに関しても、的確な助言をしてくれる。僕らを革命の成功へと導いてくれる。ちょっと怖いが、とても頼もしい仲間が加わってくれた。仲間だなんておこがましいかもしれない。・・・協力者かな・・・。言葉遣いには気をつけよう・・・。うん・・・。